春に想われ 秋を愛した夏
そうだ。
いい加減インスタントのコーヒーをやめて、ちゃんとしたのにしようかな。
美味しいレギュラーコーヒーって、何処に売ってるんだろう。
スーパーに売っている、ありきたりじゃつまらないし。
せっかくだから、専門店のものがいいな。
会社から直ぐにある、カフェラテの美味しいコーヒーショップがふと頭に浮かぶ。
けれど、僅かに躊躇った。
「さすがに、こんな時間に居たりはしないよね……」
誰にともなく訊ねるようにしてモーニングを食べていた秋斗のことを懸念したけれど、こんな時間に居るはずもない、とそのままコーヒーショップへ足を向ける。
夜も遅くなった店内は、客もまばらで、昼間のような混み具合はない。
みんなまったりとしていて、囁きあうように会話をしながらコーヒーの味を堪能している。
レジ前にある壁一面の棚には、レギュラーコーヒーの豆や粉。
その店オリジナルの色々なマグやコーヒーカップなど、たくさんの商品が綺麗にディスプレイされている。
よく解らないけれど、なんとなく美味しそうな粉に目を付けて、ドリッパーとペーパーフィルターも買わなくちゃ、と商品を探していた。
その時目に付いたコーヒーマグが素敵で、春斗と色違いでおそろいにしちゃおっかな。とまたも乙女らしく可愛い考えでマグを眺める。
もう少しよく見ようと棚のマグに手を伸ばそうとしたとき、突如背後から声をかけられて、危なくマグを落とすところだった。
「香夏子」
頭の上から降ってきた声に、ヒャッとか細い声が上がる。
驚きにバクバクとする心臓を手で押さえて振り向くと、スーツを着た秋斗が鞄を手に立っていた。