春に想われ 秋を愛した夏


何か話すことも思いつかず、気詰まりな時間が過ぎていく。
手持ち無沙汰のように、つり広告に目をやったり、向かい側に座っている人を眺めたり、意味もなくバッグの中を見てみたり。
そうやって、私は最寄り駅までの時間をやり過ごした。

「次で降りるから」

車内アナウンスが聞こえたと同時に告げたけれど、秋斗は特に何も言わない。
ただ、流れる外の風景を眺めているだけ。

もしかしたら、私の言葉が聞こえていないのかもしれない。
それでも別に構わない。
私は、さっさと勝手に帰るだけだ。

そして、電車が止まる少し前に私は席を立った。
車両の出口へ向かうと、秋斗も一緒に電車を降りてきた。

なによ。
聞こえてたの?

そう思いながら、どうして? という顔で秋斗を振り返ると、危ないから送っていく、と一言だけ。

そんな秋斗をいくらでも拒否することができたというのに、私は無言で歩を進めるだけだった。
心の奥底に残る、閉じ込めたはずの感情が嫌な音を立て始めると、隣を歩く秋斗が前を向いたまま口を開いた。

「今住んでるところ。ここから一駅違いのところなんだ」

知ってる。

そう思ったけれど、気軽に言葉を交わすのが躊躇われて無言を貫いた。

秋斗がこの近くに住んでいることは、春斗から聞いている。
けれど、秋斗は春斗から私のことを聞いてはいなかったみたいだ。

いくら双子だとはいえ、お互い仕事をするようになり住む場所も別々になって、あまり連絡を取り合うこともなくなっているのかもしれない。

何も応えずにいる私に構うことなく、秋斗は一人で話しだす。


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