春に想われ 秋を愛した夏
忘れられずにずっと抱えてきた気持ちを秋斗へぶつけると、それが砕けて粉々になっていくような気がした。
もう、傷つきたくなかったのに……。
もう、忘れてしまいたかったのに。
どうして……。
繰り返される痛みが、体全部を蝕んでいくみたいだった。
どれだけ傷ついたら、解放されるんだろう。
どれだけ涙を流せば、気持ちが救われるのだろう。
ポロポロとこぼれる涙が、暗いアスファルトへ更に黒い影を落としていく。
秋斗に掴まれたままの腕は力をなくし、そのまま体ごと地面にくず折れてしまいそうだった。
「香夏子」
もう一度呼ばれた名前は、私と同じくらい苦しげで。
なのに、腕を掴んでいる力は強く、沈み込みそうな私の体を引き上げるとその胸に抱きしめた。
ふわりと胸に収まった私を、秋斗が優しく抱きしめる。
僅かに香る煙草の匂いが、昔と変わらなくて切なさを誘った。
いや……。
なんで?
どうして?
好きでもないのに、どうして抱きしめたりするの?
これじゃあ、あの時と同じじゃない。
好きでもないのに私へした、あの時のキスと何も変わらない。
どうしてこんなことが平気でできるのよっ。
「放してっ」
抱きしめられた腕から逃れようともがく私を、今度は力強く抱きしめて放さない。
「どうしてよっ。もう、いや……」
やっと、開放されると思ったのに。
やっと秋斗から気持ちを開放して、春斗と過ごしていこうと思ったのに。
どうして、こんな。