春に想われ 秋を愛した夏
もがいても逃がしてはくれない秋斗の腕の中で、私はひたすら涙を零した。
けれど、泣きながら暴れる力は次第に弱まっていく。
きっと、秋斗はあの時のようにどうやっても私を放してはくれないだろう。
抗うことをやめた私を抱きしめていた秋斗の腕の力が緩み、何も言わずにゆっくりと体を離すと目を見つめてきた。
「香夏子」
優しくもれる私の名前が、思考能力を奪っていった。
「ごめんな。でも、ありがとう……」
そう言ってから降りてくる唇に、抵抗をしなかったのは、どうしてだろう。
重なる唇を少しも嫌と感じなかったのは、どうしてだろう。
何がごめんで。
何がありがとうなのか。
考えることもせず、ただ過去から引きずってきた想いに身を任せてしまう私は、どうしようもない女だろう。
苦しい中に見出そうとする幸せな瞬間を振り切ることなどできずに、しがみつくように秋斗を受け入れた。
秋斗と交わす二度目の口付けも、やっぱり涙の味がした――――。