春に想われ 秋を愛した夏
摘んでいた枝豆がなくなって、手持ち無沙汰になりビールを口に運んだ。
「春斗君は、どうしてるんだろうね?」
押し黙る私の態度に気を遣って、少しだけ話題を逸らしてくれた。
「今も変わってなければ、確か、大手の塾に勤めているはずだけど」
「そうだ、塾だ。先生なんて、春斗君らしいよね。けど、私は教師になるもんだと思っていたから、塾っていうのはちょっと驚いたのを覚えてるよ」
「そうだよね。教員免許も持ってるのに、どうして塾にしたんだろう?」
「いつか逢ったら訊いてみなよ」
「逢ったらね」
この先、春斗に会うことなんて、きっとないだろう。
今日秋斗に逢ったのだって、本当に偶然だったし。
そもそも塾なんて、会社員とはタイムスケジュールの全く違う環境で働いている春斗に逢う確率はかなり低い。
宝くじに当たるよりも難しい気がする。
その後届いた料理を食べながら他愛のない話でいつものように盛り上がり、ビールを三杯空けて飲みの席はお開きになった。
その間、秋斗のことには一度もふれず、私たちは仕事の愚痴だけで始終笑ったり怒ったりを繰り返していた。
そうでもしないと、過去の傷跡がまた生々しさを持ちそうで恐くなっていたから。