春に想われ 秋を愛した夏


家に帰ってからは塔子からの誘いも断り、何もする気になれずにペタリと床に座り込んだまましばらく動けないような毎日。
夏場の食欲不振とは違う、別の食欲不振に陥る。
何を食べても飲んでも美味しいと感じることができないせいで、何も口に入れる気にならない。
こういうのは、拒食症というのだろうか。
なったことがないから判らないけれど、食べ物に興味が持てないっていうのは病気のような気さえする。
落ちている自分自身を、まるで俯瞰するようにしてそんなことを思ったりもした。

忙しい、といっていたように、春斗とは逢えないままで、連絡さえままならなかった。

「春斗……」

助けを乞うようにして携帯を手に、逢いたい。とメールを入れても、忙しくて、ごめん。と返ってくるだけだった。

こんな風に逢えないまま時間だけが過ぎていけば、私の中で秋斗の存在が益々大きくなっていきそうで恐くてたまらなかった。
秋斗という存在に、心が侵食されていく。

携帯を握り締めて春斗からの連絡をただひたすらに待つしかできない私は、他力本願な気持ちで春斗のことを責めるように思っていた。

このまま私を一人にしておかないで……。
じゃないと私は――――。



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