春に想われ 秋を愛した夏
週末、心配をした塔子がスーパーの袋を手に、マンションを訪ねてきてくれた。
玄関先で出迎えた私の姿を見て、眉根を下げる。
どういう順番で話したのか。
どういう風に伝えたのか。
私の支離滅裂な言葉の羅列を、塔子は辛抱強く聞いてくれた。
少しして、下手な慰めや言葉は余計な感情を生むと考えたのか、塔子は何もいわずにキッチンへ立ち、料理を作ってくれた。
「とにかく、何か口にしなさい」
夏場の食欲不振よりもこけた私の頬に触れ、優しい顔をした。
あったかいご飯に具沢山のお味噌汁。
時間がなくて味がしみてないけど、と照れくさそうにしながらも肉じゃがを作ってくれた。
ゆっくりと少しずつ口へと運ぶと、食べ物の暖かさと、塔子の暖かさに涙がこぼれた。
「私、どうすればいいんだろう……。秋斗のことを考えると苦しいよ。こんな気持ちで春斗に逢えないって思うのに、逢って春斗のことだけで埋め尽くして欲しいなんて勝手なことを考えてる……」
少しだけ困ったような顔の塔子は、私を抱き寄せ背中をとんとんとしてくれる。
「春斗君は、忙しいままなの?」
私は頷いた。
「そう」
今日は、一緒に居ようか?
明日も仕事だというのに、そばにいてくれるという塔子にもう一度首を振った。
「春斗に、逢いに行こうかな……」
床に向かって零してから、顔を上げた。
仕事場まで訪ねて行くなんて、迷惑なことだと思う。
それでも、逢いたかった。
今春斗に逢わないと、駄目な気がしていた。
ただ、漠然と、駄目になる気がしたんだ。