春に想われ 秋を愛した夏
十月終わりの思い遣り
―――― 十月終わりの思い遣り ――――
「飯、行くか?」
ここのところ、気持ちのアップダウンの激しい私を気遣ってか、ランチタイムになって隣から声がかかった。
「おごりじゃないけどな」
残念な前置きに、えーっ? なんてわざとらしく漏らして笑うと、調子に乗るなと突っ込まれた。
おごりじゃないランチは、近くの定食屋となった。
そういえば、春斗とも定食屋さんに行ったなぁ。
遠い昔のことのように思い出していると、目が遠い、と目の前に座る新井君から突っ込まれる。
そんな風に言われてから思ったけれど、本当に随分と昔のように感じてしまう。
仲良くおでこをくっつけあい、クスクスと愛しそうに微笑みあっていた春斗と私の時間は、まるではるか遠い昔のできごとのようだ。
なんだか、夢や幻のよう。
もしかして、本当にそうなのかも……。
バカみたいな妄想にかられていると、新井君が呆れたような顔をしてじっと私を見ていた。
「脳みそはフル回転かもしれないようだけど。その顔、イタイぞ」
考え込んでいた私に向かって、痛い一発をお見舞いしてくれる。
多分、相当間の抜けた顔をしていたに違いない。
「蒼井はさ、なんだかんだサバサバとしている風だけど、考えすぎるところがあるからな。あんま深く考え込むなよ。シンプルに考えればんんだよ、シンプルにさ」
焼肉定食の焼肉を飲み込みながら、新井君がぼそりという。
シンプルか……。
そういわれても、あの秋斗のことをシンプルに捉えすぎたからこんなことになっている今の私があるんだけどね。
まんまと何年も傷ついて引きずる恋をしている自分に嘲笑だよ。
で、いつまでたっても引きずってしまうおかげで、秋斗を傷つけ、春斗とさえギクシャクしている始末。
もう、自分で自分にお手上げだわ。