春に想われ 秋を愛した夏
それにしても。
「なんだか、私のことよく解ってるみたいな口調だね」
私は、しらっとした素振りでそう返してみた。
「隣に座って長いからな」
確かに、新井君とは、もうずっと同じ部署で隣の席が続いている。
二人とも大きな異動もなくいるのが何故なのかよく解らないけれど、入社以来の付き合いだ。
ミサじゃないけれど、課長には本当に気に入られているのかもしれない。
「蒼井が落ちてる時は、すぐわかる」
「そんなに解り易い?」
窺う私に、大きく一つ頷いている。
「普通なら、公私混同するな! なんて、怒るんだけどな。蒼井の場合、落ちててもやることだけはやってっから、怒るに怒れねぇよ」
ふてくされたように言って、付け合せのきゅうりをポリポリと音を立てて食べる。
「じゃあ今度からは、新井君が心置きなく怒れるように、仕事も手につかないくらい落ちとくよ」
「それはそれで面倒だな」
ケタケタと笑うと、残りのご飯を一気にかき込んだ。
「飲みに付き合うくらいはしてやるぞ」
店を出てすぐに、新井君が照れ隠しなのか背を向けて元気付けてくれた。
「ありがとね」
同期の頼もしい背中に、胸が熱くなった。