春に想われ 秋を愛した夏
「うーん。やっぱ、いいや」
「ちょっ、ちょっとー。言いかけてやめるのは、なしでしょー。なんか気持ち悪いじゃない」
話を遮っておきながら、それでも友達からの助言が欲しくて、不安を取り除きたくて、しつこく訊ねてしまう。
「うーん……。けど、聞かないほうがいいよ。うん」
「そこまで言っといて、何を今更」
「後悔するよ」
「しないから言って。もうこの辺が気持ち悪いったらないから」
胸の辺りをさすって急かすと、塔子がやっと口を開いた。
「香夏子さ。秋斗君との事。何もなかったことには、できないんじゃないの?」
塔子の言葉に息が詰まった。
「私、春斗君なら香夏子の中にある秋斗君の存在を追い出してくれるんじゃないかなって思ってた。実際、仲良くやってるみたいだから、安心してたんだよね。でも、またあんなことがあって。秋斗君は秋斗君で、今度は香夏子を失いたくないなんて言う始末だし。そんな風に秋斗君の想いに追い立てられている今の香夏子を見てるとさ……」
そういって、また塔子が言い淀む。
「そもそもさ、付き合っている彼に一緒に暮らそう、なんて言われるのって。普通に考えれば、幸せな提案じゃない? その提案に、幸せな気持ちで迷っているならいいと思うのよ。だけど、そうじゃないように見える迷いっていうのは、やっぱ香夏子はまだ――――」
そこまで話すと、塔子は驚いた顔をして突然話すのをやめてしまった。
そして、慌てて自分のバッグの中からハンカチを取り出し私に差し出してきた。
「……何?」
差し出されたハンカチを反射的に受け取ってから疑問を口にした。
「涙……出てる」
「……え?」
塔子にいわれて、初めて自分が涙を流していることに気がついた。
「……あれ? 私、何で……」
そう口にした途端、堰を切ったように涙がこぼれ出てきた。
塔子が貸してくれたハンカチがあっという間に涙に濡れていく。
「ごめん、香夏子。ごめん」
目の前でポロポロと涙を流す私に、塔子が必死で謝る。
私は、ううん。と首を横に振りながらも、なかなか涙をとめることができなかった。