春に想われ 秋を愛した夏
塔子が言うとおり、私はきっと秋斗の言葉を信じたいんだ。
秋斗への気持ちをまだ振り切ることができないんだ。
あんな風に告白されてキスをされ、ムカつくなんていわれても。
やっぱり気持ちはそう簡単じゃない。
ずっと好きで好きでどうしようもなかった想いを、今更でも何でもやっと受け入れてもらえたんだ。
それがもしも秋斗の冗談だったとしても、私はその言葉を信じたい。
想い続けてきた感情を、抑え込むことなんて難しすぎる。
春斗がいるのは解っていても、もう止められない。
心の中は既に秋斗でいっぱいだった。
なのに、偽善を振りかざす頭の中が、僅かな歯止めをかけてくる。
「私……。信じちゃいけないよね。秋斗の気まぐれに振り回されるなんて、バカだよね……」
塔子に確認したってどうしようもないのに、自分から認めるのが恐くて誰かのGOサインが欲しくなる。
「香夏子……」
「だって、いつだって適当なんだもん。昔から、いつだって適当で無責任で。私の気持ちなんか振り回してるのにも気づいてないんだから。何で今更好きだなんて、失いたくないなんて。そんなのズルイよ」
グズグズと涙を流しながら話す私に、塔子はうんうん。と優しく頷き聞いてくれる。
「私には、春斗がいるんだから。春斗を悲しませるわけには、いかないんだから」
そう呟く私に、塔子が悲しげに眉根を下げた。
「本当に、そうなのかな?」
「塔子?」
「春斗君を悲しませるから、秋斗君の気持ちに応えないの?」
「だって……」
「傷つくのは、正直しんどいと思う。香夏子が今までどんなに悲しい思いしてきたか、知らないわけじゃない。だけど、秋斗君の言葉を信じる信じないもそうだけど。春斗君のこと、悲しませないためだけに一緒にいるんだったら、違うと思うよ」
ガツンと来た。
頭がガンガンとしてくる。
秋斗と同じことをいわれて心が痛む。
春斗を傷つけることが恐い。
いつだって、あんなに私のことを思って優しくしてくれる春斗を悲しませてしまうのが恐い。
そして、それ以上に自分の傷をこれ以上深めるのはもっと恐い。
春斗といることの楽さに身を委ねて、本当の気持ちに蓋をしようとしている。
ぬるま湯につかって、楽なほうへと流れていきそうになる。
「何が正しいのかな……」
ポツリ漏らす私へ、塔子が悲しげな顔をする。
「正しさなんて、関係ないんじゃないかな。正しい恋なんて、ないと思うよ。香夏子の胸の中にいる存在が全てじゃない?」
塔子がゆっくりと諭すようにいった。