春に想われ 秋を愛した夏
深夜遅く、春斗が以前のように仕事帰りにやってきてくれた。
それは、随分と久しぶりのようで、お互い何処となくぎこちなさを漂わせている。
特に私は、蓋をしてきた自分の気持が既に制御できない方へ向かっていることに表情を固くしていた。
春斗が笑いかけてきても、前と同じようにコーヒーを淹れていても、心の中を誤魔化しきれなくなってきていることに知らず俯き加減になってしまう。
「香夏子」
春斗が、二人の間にあるぎこちなさを払拭するかのように、キッチンに立つ私を背中から抱きしめてきた。
けれど、そのまま迫られるキスに、私は応えられずに顔を背けた。
「香夏子……」
僅かな疑問と不安の入り混じる春斗の顔を見ていられず、思わず目を逸らしてしまう。
そのまま顔も見ずに、まるで床とでも話しているみたいに私は言葉を零した。
「春斗……私……」
声が上ずる。
露になった感情を告げるのが恐い。
春斗は、どんな顔をするだろう。
春斗は、どれほど傷つくだろう。
考えただけで、しり込みしてしまう。
それでも、言わなきゃ。
「あのね、春斗。私――――」
「わかってるよ」
やっとの思いで言葉にしようとすると、春斗が言葉を重ねた。
「え?」
私は、予期せぬ言葉に顔を上げ春斗の顔を見る。
その顔は、穏やかでいて、その中に辛さを抱えていた。
「ずっと、解ってた」
「……春斗?」
なにを? という疑問は、座って話そうか、と促す春斗に遮られた。