春に想われ 秋を愛した夏
言われるままにリビングの床にペタリと座り込むと、テーブルを挟んだ向かい側に、とても穏やかな表情を浮かべた春斗も座った。
「何から、話そうかな……」
春斗は、少しだけ困ったような顔をしたあとに、その穏やかな表情のまま、ポツリポツリと言葉をこぼしていった。
「僕は、大学の時から、ずっと香夏子が好きだったんだ。これは、前にも言ったかな」
少し照れたような顔をして、春斗が確認してくる。
それに私は、コクリと頷いた。
「秋斗と間違えて声をかけられたときから、僕はずっと香夏子だけを見てた」
イタズラな顔をする春斗に、私は当時のことを思い出して苦笑いを浮かべる。
「授業を受けているときも、一緒に学食のランチを食べているときも、深夜に四人で集まって大騒ぎしている時も。ずっと香夏子だけを見てた。だから、……気づいてたんだ。香夏子が誰を見ているのか」
少しだけ眉根を下げた春斗が、私を見つめる。
その瞳は、僕の気持ちに気づいてなかったよね? と窺っているように感じられて、私は何も気づかずにいた当時の自分の鈍感さに胸が苦しくなっていった。
春斗がどんな気持ちで、あの四人の中にいたのか。
秋斗に振り向いてもらえずに、想いを募らせていた私は痛いほどによく解った。
「秋斗はさ、あんなだから。いつも誰とも真剣にならなくて。僕は、そんな秋斗の態度がもどかしかったし、イライラもしてた。気まぐれみたいに香夏子に優しくしたり、冷たくしたり。それに振り回されている香夏子を見ていられなくて、ある日秋斗に言ったことがあるんだ」
なんて?
私の声にならない疑問を受けたように、春斗が教えてくれる。
「香夏子の気持ちに気づいてるくせに、傷つけるような事するなって。それが、大学卒業の前日だった」
え……、気づいて、いた?
秋斗は、私の気持ちに気づいていたの?
それでもああして普段どおりの毎日を送り、四人でいる日々を送っていたというの?
そんなことにも気づいていなかった自分は、なんて間抜けなんだろう。
そうか。
だから、あの日秋斗は……。
「結果的に、僕の一言のせいで勇気を出した香夏子の気持ちを台無しにしちゃったよね」
ごめん、と春斗が頭を下げた。
私は首を横に振りながらも、知らなかったあの時の出来事に、ただただ驚くしかなかった。