春に想われ 秋を愛した夏
「それからの秋斗は変わった。適当に付き合ってた女の子を全部切って、就職した先の仕事にも真面目に取り組んで。親が一緒に暮らしてるほうが安心できるからって、二人で住むためのマンションも見つけてくれてたけど、秋斗は結局別の部屋を自分で探して住み始めた。僕はその時になって、秋斗が一人でいられる自分というものを確立しようとしているんだって感じたよ」
一人でいられる、自分。
秋斗のそばには、常に誰かが居た。
それは、もちろん家族である春斗であったり、友達だった私たちであったり。
そうして、数え切れないくらいの女友達も。
誰かがそばに居るのが当たり前だった日々を、秋斗は自ら変えようとしていたんだね。
「私が突然連絡先を変えてしまったから……?」
「多分」
春斗は、苦笑いを浮かべる。
「僕たちは、話し合ったわけではないけれど。いつか香夏子にもう一度逢えるなら、しっかりとした自分自身を見せられるように、ってお互いに思っていたんだよね」
そこで春斗が立ち上がり、冷めてしまったコーヒーの代わりに、お茶淹れるね。とキッチンへいき話が止まった。
薬缶に水を入れる音や沸かす音。
ティーパックを取り出す音を聞きながら、私は今春斗が話してくれたことを、何とか消化しようとしていた。
強引で強気で、思ったことをすぐに口にして私を困らせていた秋斗だけれど。
大事な事は、何一つ話してくれてはいなかった。
告白前日に春斗から言われていたことも。
今は、女の人と遊び回っていないことも。
ずっと想っていてくれたことも。
どうして話してくれなかったんだろう。
言葉が足りなすぎるよ。
突然現れて、ただ好きだなんて、失いたくないなんて言われたって、容易に信じられるわけがないじゃない。