春に想われ 秋を愛した夏
「それでも、やっぱり。どうしても、僕は香夏子と一緒にいたかった」
「春斗、ごめん……。ごめんなさ……」
私は春斗に頭を下げた。
真っ直ぐ気持ちを向けてくれていた春斗に、私はずっと自分の気持ちに嘘をついて隠してそばにいた。
春斗といることが幸せなんだって、勝手に思い込んでいた。
「謝らないで。ズルイのは、僕の方なんだから」
「そんな、春斗は、ずるくなんかないよ」
「ズルイよ。香夏子は僕を買いかぶってる」
「そんなことっ」
「あるんだ」
春斗がきっぱりと言い切った。
「僕は、秋斗の気持ちを知っていたし、秋斗が香夏子に逢いたがっているのもわかっていたのに。偶然逢ったことも、付き合っていることも、ずっと黙ってた。秋斗が香夏子に逢ったことを僕に話してくれても、僕は何も知らない顔で秋斗の話を聞いていたし、香夏子の気持ちに気がついても、目を背けてきたんだ。香夏子を幸せにできるのは、秋斗じゃない、僕だって。だから、秋斗には近づかせたくないって」
男の嫉妬なんて、本当にみっともないよね。
春斗は悲しげに漏らすと、冷め始めた紅茶を口にした。
「香夏子。ありがとう」
「……え?」
「今まで、ありがとう」
深く頭を下げた春斗は、顔を上げると悲しげに微笑を浮かべる。
「秋斗のところへ、行って」
「そんな……」
「いいから。僕のことを思ってくれるなら、最後は格好つけさせてよ」
そういうと、春斗が部屋を静かに出て行った。
残された私は、春斗の香りが残る部屋で春斗の受けた傷を思い続けていた。