春に想われ 秋を愛した夏
コツコツとヒールを鳴らして自宅マンションに向かったけれど、秋斗と逢ったことや、塔子と久しぶりに二人の話をしたこともあって、なんだか誰もいない一人の家に帰る気分にはなれずにマンション前を通り過ぎた。
あの頃いつだって騒がしくしていた毎日を、思い出してしまったからだろう。
大学時代の私たちは、何かにつけては四人のうちの誰かの家に行き、夜通しお酒を飲んで騒いだり、深夜遅くまで借りたDVDで映画を観たり、取り留めもない話をし続けたり。
まるで、一人で居ることを恐がるように集まっていた。
ほんの数年程前のことなのに、今では、とても遠い昔の記憶のように感じる。
懐かしい心境に陥り、やっぱり春斗とだけでも連絡を取り合っていればよかっただろうか、なんて少しだけ後悔をしてしまう。
コンビニでも寄ろうかと考えていたけれど、歩きながら空だった冷蔵庫のことや、塔子から言われた、たまにはスーパーへ行きなさい。という言葉を思い出し、深夜遅くまでやっている少し離れたスーパーまで足を伸ばすことにした。
こんな遅くにマンションから離れて出歩くことに躊躇いはあったけれど、思い出した賑やかさに寂しさが負けて歩を進めた。
静かな夜の中、なるべく人通りの多い場所を選んでスーパーを目指す。
コツコツと鳴るヒールの音が、深夜の僅かな賑やかさに紛れて消えていった。