春に想われ 秋を愛した夏
「は、春斗?! どうしてここに居るの!?」
「香夏子こそ」
二人で同じ質問をし、同じように心臓辺りに右手を当てている。
全く同じ行動がまるで鏡のようで、不意にぷっと笑えて来てしまった。
私が笑い出すと、春斗も笑う。
驚いた表情を緩めて笑う春斗は、懐かしい昔のままの優しい笑顔だ。
「僕のマンション。ここから少し行ったところなんだ」
お互いの笑いが収まった頃に春斗が言って、さっきドンと音を立てて落とした自分の鞄を拾い上げた。
重そうな鞄を拾った春斗に、私の家も近いと話すと、また驚いている。
お互いに、まさかこんな近くに住んでいたなんて、今まで少しも知らずに居た。
「なんか。運命みたいだね」
あんまり驚いたのか、春斗はまるで乙女のようなセリフをいうものだから思わずまた笑ってしまった。
クスクス笑う私に、笑いすぎだよー。と春斗がわざと怒った顔する。
それにしても、三年前に突然ぷっつりと連絡をしなくなった相手がこんなに近くに住んでいるなんて、驚いて当たり前だよね。
お互いに顔を見合わせていると、なんだかまた可笑しくなってきた。
「なんか。おかしいね」
クスクスと声を上げると、春斗もまた笑う。
さっきまで、怒って嫌われているかもしれないなんて考えていたのに、いざ春斗に逢ってみたらそんなことは微塵も感じさせない笑顔だった。
偶然の出会いは、懐かしさを胸いっぱいに広げて、笑顔を溢れさせてくれた。