春に想われ 秋を愛した夏


「去年の終わり頃からかな。年明けから仕事場が異動になってね」
「なんだ、わりと最近じゃない。私なんて、もう三年になるよ」
「へぇ~。そうなんだ。じゃあ、この町の大先輩だ」

大先輩って、と笑うと春斗も笑う。
どうでもいいような、些細な事でも楽しいのは、やっぱり気があう仲間だったからだろう。
学生の頃へタイムスリップしたみたいに、陽気になって口角は上がりっぱなしだ。

「それにしても、異動って。随分とおかしな時期じゃない」
「そうなんだよね。少し先の駅に同じ系列の塾があるんだけれど、そこで突然欠員が出ちゃって。急遽回されることになってね」

「ふぅん。塾の講師も大変なのね」
「ん、まぁ、そこそこね。香夏子は?」

「相変わらずよ。大学出てからずっと同じ職場。何の変化もない毎日を送ってます。あ、そうだ。塔子も近くに住んでるのよ」
「え? 本当に? なんだ、みんな近くに居たんだ」

「うん」

塔子の名前に懐かしそうに目を細める春斗は、少し間をおいてからちょっとだけ躊躇うように付け足した。

「……秋斗も、一駅先に住んでるんだよ」
「……え。秋斗も……」
「うん。今度さ、また昔みたいにみんなで飲めたらいいよね」

何の躊躇いもなくそう提案する春斗に、私は即答出来ずに苦笑いを浮かべるしかできなかった。

秋斗のこととなると、私には少しの余裕もなくなってしまう。
私と秋斗に何があったのかなんて、春斗はきっと知らないままのはずだから、こんな風に躊躇ったり動揺してしまう方がおかしいのに。
そうだね。ってさっきまでと一緒に軽く応えればいいのに、それが巧くできない。
自分がどれだけ秋斗のことを引きずっているのか、こんな時によく分かる。


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