春に想われ 秋を愛した夏
七月の癒し
―――― 七月の癒し ――――
ハンカチを手放せなくなった、七月初め。
朝から既にこの暑さはないよ。とギラつく太陽を恨めしく眺めながら、オフィスのあるビルに踏み込んだ。
瞬間、エアコンの効いたエントランスが天国に感じて安堵の息が漏れる。
「生き返る」
ポツリ零してエレベーターに乗り込むと、他の社員たちに紛れてミサが居た。
「おはよ」
挨拶を返すと狭い箱の中で、ねぇねぇ、聞いて、聞いて。と擦り寄ってくる。
頬の緩み具合を見れば、何かいい事でもあったのだろうとわかった。
「昨日ね、彼が一緒に暮らさないかって言ってきてぇ」
ミサは、とても嬉しそうに語尾を延ばして体をくねらせる。
それでも周囲には気を遣い、なるべくボリュームを下げて朝から私に惚気話しを始めた。
同棲をするかどうか。
付き合っていれば、出なくはない話よね。
私は一度も経験したことがないけれど、好きな人と始終一緒に居られるなんて、きっと幸せなんだろうな。
彼氏もいないのに同棲という状況をなんとなく想像して、ちょっと羨ましいかも、なんて思ってみた。
「で、一緒に暮らすの?」
エレベーターを降り、フロアに向かいながら訊ねると、どうしよっかなぁ、と思って。なんてデレデレしながらも躊躇っている。