春に想われ 秋を愛した夏
「なんか、迷う理由でもあるの?」
「ん~。いつも一緒は嬉しいけど。逆に、いつも一緒に居たら新鮮味も薄れるかな。なんて考えたりしてるんだ」
「新鮮味か」
そうだよね。
夫婦というわけじゃないけれど、ずっと一緒に居るっていう事は、全て見られるわけだもんね。
デートだからって、念入りに化粧やヘアスタイルを整えたりすることも、なくなっちゃう?
ああ、そもそも毎日一緒に居るんだから、デートっていう感覚さえ薄れていく。とか?
それは、ちょっと寂しい気がするな。
色々と頭の中で勝手なシュミレーションをしながら、ミサに質問を投げかけた。
「彼は乗り気なんでしょ?」
「まぁね。なんか、私をいつでもそばに置いておきたいんだって」
「それって、なんだか……」
所有物みたいな感じ、と言いそうになって言葉を呑んだ。
幸せなカップルに、わざわざ水を差すこともないだろうから。
「まぁ。適当にやってくださいな」
ヒラヒラと手をふると、真面目に聞いてよぉ。なんて泣きまねをしている。
朝から人の惚気話に真剣になれるほど、まだ脳内は目覚めちゃいないのよ。
また、今度ね。と言って席に着くと、私に話を聞いてもらえなくなったミサは、次の標的を見つけて惚気ながら自分の部署のあるフロアへといってしまった。
その姿に羨ましさと微笑ましさが混じって笑みが漏れる。
「同棲かぁ。一回くらいはしてみてもいいかなぁ」
相手もいないのに、書類に手を伸ばしながら独り言を呟やくと、隣の席に座る新井君が怪訝な表情をしていた。