春に想われ 秋を愛した夏

仕事終わりに、いつもの居酒屋で塔子とビールを飲んでいた。

「同棲？」
「うん。会社の同僚がね、彼氏にしようって言われてるらしいんだけど、ちょっと迷ってるみたい」

ビールの美味しい季節になったものだから、呑むピッチが自然と速まる。
しかも、少し前までグラスで飲んでいたビールは、この暑さにジョッキへと変わっていた。
男がいないと、女なんてこんなもんよね。と開き直って豪快にビールを煽る。

「塔子は、同棲したことある？」
「ないない」

私の質問に即答した上に、右手を顔の前で勢いよく振って否定した。

「同棲なんて、面倒に決まってるじゃない」
「どうして？」
「だって、男なんて女が一緒に住んだら便利に扱うに決まってるって。掃除、洗濯、料理。初めは好きだからこっちもニコニコ楽しく出来るけど。そのうち、何で自分ばっかりってなるのよ、結局は」

ふんっ。と塔子が僅かばかり嘆息する。

「そんなもんかなぁ？」
「そんなもんよ。しかも、ずっと一緒に居るんだよ。お風呂も化粧しているところも着替えてるところも、ぜーんぶ見られちゃうわけよ。恥じらいも何も無いっての」
「はぁ～。なるほど」

勢いよく話す塔子に、実は同棲経験があるんじゃないかと感心してしまった。

「塔子って、先読み力が凄いね」
「褒められるほどのことでも」

「いや、別に褒めてないけど」
「この塔子さんに、何でも訊いてよ」

褒めていない。と言っている私の言葉はスルーで、何故だか誇らしげに胸を張っている。