春に想われ 秋を愛した夏
「あ、そういえば。春斗君とは、どう?」
「どうって。スーパーで会って以来だよ」
「連絡はしてないの?」
「うん」
「せっかく近くに住んでるのが分かったんだから、前みたいに会ったらいいのに」
「そうなんだけど……」
春斗に連絡を取ったら、秋斗にも伝わる気がして、なんとなくできずにいた。
秋斗とも会社で偶然会って以来なのだけれど、あの兄弟は意外と仲がいいから、私に会ったことを春斗はきっと秋斗に話している気がする。
もし、春斗に連絡を取って、秋斗とも逢うようなことになったら、私はどんな顔をすればいいのか判らない。
あの時冷たくしてしまったことに秋斗が怒っていたらと思うと、それも恐かった。
細かいことを気にしない性質の秋斗だと解っていても、臆病風に吹かれた私には勇気なんていう言葉が何処にも見当たらない。
それに、塾を仕事にしている春斗は、私たち会社員とは働く時間が違いすぎる。
出勤時間は午後からで、退社時間は夜遅くだという。
家に着くのは深夜になるとか。
休みだって、平日だと話していた。
「ねぇ。春斗君に連絡してさ、ここに呼んじゃおうよ。私も久しぶりに会いたいし」
「突然連絡しても、迷惑だよ……」
まったくサイクルの異なる春斗をこの時間に誘ったとしても、来られない確率の方が高いだろう。
久しぶりに三人で飲んだら、きっと楽しいと思う。
だけど、秋斗のことを考えると気乗りのしない私は、できれば春斗を呼びたくないなと思っていた。
春斗に逢った時は、つい懐かしさと勢いでいつも飲んでいるこの場所に気兼ねなく来なよ。とは言ったものの、本当に春斗から連絡が来たらどうすればいいだろう。と思っていたくらいだ。
「香夏子だけ久しぶりに会って、ズルイじゃん。私だって懐かしい春斗君のあの癒し系に触れたいんだから」
最近男日照りで、心に癒しが欲しいのよ。と塔子がわざと悲しげに付け加える。