春に想われ 秋を愛した夏


「春斗君。こっちこっち」

塔子が嬉しそうに春斗を呼ぶ。

私は、そのあとに秋斗が仏頂面をして入ってくるんじゃないか、とどぎまぎしながら後方を見ていたのだけれど、ドアは閉まり、春斗だけがこちらへやってきた。

「うわー、野上さん。久しぶりじゃないですかー。元気でした?」

塔子を見て、春斗がとても嬉しそうに顔をクシュクシュッとして笑う。
その笑みにつられながら、私はほっと息をつくと同時に僅かながらに残念な思いも感じていた。

「うん。春斗君も、元気にしてた?」
「元気ですよー」

久しぶりの再会に顔を綻ばせ、春斗が躊躇いもなく私の隣に腰掛ける。

以前、そこは秋斗の場所だった。

四人で集まる時、何故だか秋斗はいつも私の隣に座っていたんだ。
私にはそれが、くすぐったくも嬉しいことだった。

当たり前のように決まっていた定位置に、秋斗の居ない今、春斗が居る。
同じ顔をしている双子の兄弟なのに、春斗が隣に座っていることがとても不自然に感じてしまうのは、大学での四年間が私の中に未だ染み付いているからなのかもしれない。

頼んだビールが届くと早速口をつけ、夏はビールだよね。なんて春斗が優しく笑う。
その穏やかな物言いや表情は、やっぱり昔と何も変わらない。

「春斗君の癒し系は、相変わらず健在ね」
「え? なにそれ?」

塔子の言葉に、春斗が照れたように笑う。

「もうさ。私は大学時代、春斗君が笑ってくれていると、それだけで癒されていたわけよ」

ありがとう。なんていって、春斗に握手を求める塔子に笑いながら応えている。

どうやら、塔子は大分酔ってきているみたいだ。


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