春に想われ 秋を愛した夏
目の前の秋斗は私の胸の裡など知る由もなく、屈託ない表情で笑いかけているけれど、余裕などない私の表情は固まったままだった。
いやだ。
逢いたくなかった。
何で今更。
目の前の秋斗はにこやかに笑みを浮かべたままで、何の躊躇いさえない。
そんな秋斗を目の前に、私はただどうすることもできなくて、とにかくこの場から逃げなくちゃ。という考えだけがひたすら脳内を埋め尽くしていった。
逃げ出したくて後ずさりする心とは裏腹に、体は固まったまま言うことをきかない。
だから、しかたなかったんだ。
こんな風にしてしまったのは、仕方のないことだったんだ。
「香夏子」
久しぶりに逢った秋斗が、笑顔で私の腕に触れた。
昔と何一つ変わらない笑顔で、秋斗が私に触れた。
そう、昔と何一つかわらないままで。