春に想われ 秋を愛した夏
声にならずに、互いにただ距離を保ったまま時間が過ぎて行く。
まるで牽制しあってでもいるかのようだ。
どのくらいそうしていたのか。
不意に秋斗が踵を返した。
その姿に、思わず声をかける。
「あきとっ!」
けれど、聞こえていてもおかしくない私の声を、秋斗は無視していってしまった。
秋斗……。
残された私は、追いかけることもできずに、夜の暗さに紛れていくその背中を見つめる。
遠ざかる背中を追うことのできない私は寂しさにくれ、心の中にずっと押し込めていた愛しい感情が切なさとともにわきあがってきた。
ビールの重みにズキズキとする傷口が、まるであの時傷ついた自分の心の痛みのように胸を苦しくさせていく。
「秋斗……」
どうして何も言わないの。
こんな風に無視されるなんて……。
なんだか、私自身の存在を否定された気持ちになってくるよ。
お前なんて、もう関係ない。といわれてでもいるみたいだでむしょうに悲しくなってきた。
あんな態度とりやがって、と怒られたほうがよっぽどいいよ。
何も言わずに背を向けた秋斗へ、過去の自分がまた手を伸ばそうともがき始めていた。