春に想われ 秋を愛した夏
「ただいまー」
ビールの詰まった重い袋を持って中に入ると、春斗が玄関先へ来てシーッと人差し指を立てる。
「え? まさか、寝ちゃったの?」
静かな室内を覗きこみながら中に入ると、ソファの上で丸まっている塔子を発見。
「もう。せっかく買ってきたのに」
重かったビールの入っているコンビニ袋をドサリと床に置き、袋の食い込んだ手ををヒラヒラとさせる。
「ごめん。連絡しようかと思って携帯にかけたんだけど……」
そういって、春斗が置きっ放しにしていった私のバッグへ視線を送る。
「そっか。携帯持って出なかったもんね。ごめん」
ふぅーッと息をつくと、買ってきた缶ビールを春斗が冷蔵庫へとしまってくれた。
その背中に声をかける。
「ねぇ。さっき……」
秋斗を見かけたよ。
何の考えもなしに言いかけて、口をつぐんだ。
秋斗に逢ったことを春斗に言ったって、なんにもならない。
胸の奥底に蟠ったままの気持ちを、何も知らない春斗に話してどうしようというのか。