春に想われ 秋を愛した夏
外は、夜だというのに温度が高い。
まとわりつく暑さに、自然と顔が歪んだ。
「暑いね」
「うん。そうだ。指は、平気?」
思い出したように言われて、絆創膏の巻かれた右手の人差し指を見ると赤黒く染まっていた。
その色を見た瞬間、痛みも復活して、やけにズキズキとしてくる。
「大丈夫、大丈夫」
春斗の顔を見ずに、平気なふりをした。
心配性の春斗だから、私の表情を見たら余計に気を遣わせてしまいそうだからだ。
「香夏子は、相変わらずおっちょこちょいだよね。言ってるそばから切っちゃうなんてさ。こっちが驚くよ」
そう言って私の右手を取ると、絆創膏の巻かれた人差し指にそっと触れる。
それだけなのに、ズキリと痛みが走った。
「気をつけてたつもりなんだけどな」
痛みを隠して少し膨れて見せると、柔らかな笑顔で私を見てくる。
「帰ったらもう一回消毒して、貼り替えたほうがいいね」
「そうする」
まだズキズキとする指に触れたまま、春斗が私を見る。
その目が何か言いたそうで、少しの間待ってみたけれど、何も言わずに手が放れていった。