春に想われ 秋を愛した夏
少しすると、自宅マンションが見えてきた。
「二人の家。ほんとに近いね」
「でしょー。仲がいいだけに、この距離は便利なのよね」
当時、示し合わせたわけではないお互いの住処は、気の合う者同士を巧く引き合わせたように空いていた。
「お互い、住むところが決まっていざ連絡を取り合ってみたら、目と鼻の先だったからおかしくって」
当時のことを思い出し、笑みが漏れる。
「大学卒業しても、仲のいい友達づきあいができるって、貴重なことだよね」
「うん。塔子の事は、大事にしたいの」
ずっとこの先も大切にしたいと思う友達。
そんな相手に出会えた私は幸せ者だ。
自然と穏やかな表情になっていく。
「そういうところ、変わってなくて、やっぱりいいよ」
「ん?」
「香夏子の、純粋なところ」
「え? 私が純粋? 買いかぶり過ぎだよ」
クスクス笑う私に、春斗が優しい目をする。
「そんなことないよ。純粋で素敵だと思う」
呟くその目があんまり優しくて、ちょっとドキッとしてしまった。
昔はこんなことを言うタイプじゃなかったから、なんだか免疫がなくて困ってしまう。
「送ってくれてありがと。あ、あと。食事と片付けも。すごく美味しかった」
若干の動揺を隠すように、早口でお礼を言って頭を下げた。
「どういたしまして。また何かリクエストがあれば、いつでも腕をふるわせて貰うよ」
「楽しみにしてる」
「じゃあ。お休み」
お休み。と少し手を上げエントランスに足を踏み入れると、ふいに春斗が私を呼んだ。