春に想われ 秋を愛した夏
「香夏子」
「ん?」
振り返り見た春斗の表情は、何故か不安そうだった。
どうしたんだろう?
少しの間待ってみても、何も言わない。
さっきもこんな感じだった、と塔子のマンション前でのことが頭に浮かぶ。
「どうかした?」
訊ねる私に、戸惑いの表情を浮かべている。
何か言いたげな顔を見たまま、私はじっと春斗の言葉を待っていた。
「……秋斗に、逢った?」
瞬間、予想もしなかった問いかけに、心臓がかなりの衝撃を受けた。
秋斗が会社に偶然現れたことや。
さっきのコンビニでのことが、ぐるぐると頭の中を回っている。
春斗がどうしてそんな質問をしたのかなんて考える余裕もなく、私はただこう応えた。
「逢って……ないよ」
嘘をつく自分が、どうしてなのかも解らずに。
ただ、それだけを言って春斗に背を向ける。
「そっか……」
ポツリと私の背中に向けてもらした春斗は、じゃあ、お休み。と踵を返して行ってしまった。
春斗の質問に、ドクドクと激しく鳴り続ける心臓は、指先の傷にまで響くようで、いつまでもズキズキと痛み続けていた――――。