春に想われ 秋を愛した夏
「どーせ、ご飯もろくに食べないで、毎日ビールばっかり飲んでるんでしょ」
痛いところを突かれて、何もいえない。
「ちゃんと食べなきゃ、駄目だよ」
「なんか、ミサ。お母さんみたいだね」
「こんな大きな娘を産んだ覚えはありません」
ピシャリと言われる。
そもそも出産したことないから、と冗談交じりにぶつぶつとミサが呟く。
結局、ランチの焼き魚定食はほとんど食べられなくて、ミサの食べている姿を眺めるに終わった。
ちゃんと食べられなかったランチの代わりに、できるならよく冷えたビール。といいたいところだけれど、残念なことに今はまだ仕事中だから冷たいラテで手を打つことにした。
席に戻ってすぐ、会社の近くにあるコーヒーショップのアイスラテが飲みたくて、財布と携帯を手にして立ち上がる。
あのラテの美味しさは、この暑さにも勝つほどなんだ。
「コーヒー買いに行ってくる」
何かあったら連絡して、と隣の席の新井君に一声かけて席を立つ。
「サボらずに帰って来いよ」
「わかってるって」
ヒラヒラと手を振り一階に下りてビルを一歩出ると、これでもかってくらいの攻撃的な暑さに眩暈がした。
「なんなのよ。この暑さ……」
誰にともなく愚痴を零して、五分ほど歩いた場所にあるコーヒーショップを目指した。
アスファルトに視線をやると、蜃気楼が時々見えたりしてげんなりしてくる。