春に想われ 秋を愛した夏
ぼんやりとする思考で、水分、摂らなきゃ……。と目の前の氷が溶け始めているラテのカップを見たけれど、この状態だとスポーツドリンクの方がいいだろう。と少し後ろにいくつか設置されている自販機を座ったまま振り返った。
その動作にまた眩暈がして、立ち上がれない。
参ったなぁ……。
頭を右手で押さえ込むように支えたまましばらくそうしていると、少しして目の前でコトンと鈍い音がした。
ぼんやりとした頭のまま、なんだろう? と音の正体に焦点を合わせると、テーブルにスポーツドリンクが置かれていることに気づいた。
疑問に思い、支えていた右手から頭を上げると、すぐそばには秋斗が立っていた。
その姿に息を呑み、驚きに声が出ない。
いや、体調の悪さも手伝ってのことだけれど、とにかく言葉が何一つ出てこなかったんだ。
「香夏子は、昔から暑いのが苦手だよな」
何も言えずにいる私に向かって当たり前のように話しかけてきた秋斗は、少しばかり片方の口角を上げている。
一見小狡そうに見えるその顔つきは、懐かしい昔の頃と何一つ変わっておらず、何故か安堵している自分がいた。
安堵しながらも、未だ動けずに固まっていると、秋斗がペットボトルを手に取りキャップを開けてから差し出してきた。
「飲めよ」
昔から変わらない命令口調の言い方に怒りを感じるよりも、欲しかった物を目の前に差し出されたことに神経がいった。
促されるまま素直にコクリと頷いただけで、“ありがとう”も言わずに渡されたスポーツドリンクを体内へと一気に半分ほど流し込んだ。
助けを求めるように悲鳴を上げていた体に、水分が染み渡る。