春に想われ 秋を愛した夏
もう一度出逢って以来、ずっとそう。
好きという気持ちの裏側で、叶わないことを知っている私は、秋斗に冷たく当たることでしか自分を保つことができない。
こんな風にタイミングよく現れて優しくなんてされたら、好きな気持ちが抑えられなくなる。
ずっと昔に遠ざけられた気持ちが、どうしようもなく騒ぎ出してしまう。
私の気持ちに応えられないくせに、どうして近づいてくるのよ。
どうして優しくなんてするのよ。
知らず目じりに集まる雫に気づかれたくなくて、目を逸らして一歩を踏み出した。
「用事がないなら、帰ったら?」
私の言葉に、秋斗は諦めにも似た溜息をついた。
それさえも辛くて、逃げ出したくて仕方ない。
「余計なことして、悪かったな」
少し怒ったような口調に、心が痛んだ。
本当は、こんな風に言いたいわけじゃない。
可愛い女になって、素直に秋斗に甘えたい。
だけど、あの時受け入れられないと言われてしまった私は、こうやってなんでもないふりを装うしかないんだ。
なのに、秋斗の目を見てしまえば、本当は優しくされたい。と叶わぬ相手に縋りつきそうになる。
口を開いてしまえばそんな感情がこぼれ出てしまいそうで、きゅっと唇を結んだ。
冷たい態度で何も言わずにいる私を残し、秋斗は踵を返してビルを出て行く。
秋斗の去って行く足音が聞こえなくなった頃、一気に脱力してもう一度椅子に座り込んだ。
終わったはずの恋なのに、何でこんなに苦しいままなんだろう。
もう、こんな気持ちから開放されたい……。
目の前には、まだ残るスポーツドリンクがテーブルの上で汗をかき始めている。
それは、まるで私の代わりに泣いてでもいるように見えた。