春に想われ 秋を愛した夏
過去の思い出に浸り、切なく軋む心を無理やり騙して椅子から立ち上がる。
きっと、なかなか戻ってこない私のことを、新井君はサボっているんだろうと思っているに違いない。
早く戻らなきゃ。
すっかり氷の溶けてしまったラテを見て、このまま放置していくわけにも行かずに手に持った。
滴る水滴が、タチタチと床を濡らす。
お土産といってこのラテを新井君に渡したら、怒られるだろうか。
ふざけんな。と笑いながら怒る同僚を想像して、ちょっと元気が出て来た。
仕事に戻ろ。
空になったペットボトルも手にして、背後の自販機を目指す。
すぐそばに設置されたごみ箱へ捨てると、もう、平気か? と声をかけられた。
見ると、怒って出て行ったはずの秋斗が立っていた。
「何で、戻ってきたのよ」
フェイントをかけられて、さっきほどの勢いもなく言い返す。
「やっぱり、心配だったから」
「平気だって言ったじゃない」
顔も見ずに言い返して踵を返した。
エレベーターに向かって歩いて行くと、黙って私の隣に並んでついてくる。