春に想われ 秋を愛した夏
【 ごめん。今日の飲み会はパス 】
その夜、体調のすぐれないままの私は、塔子と春斗にメールを入れて家で大人しくしていることにした。
ミサに図星されたように、ビールばかり飲んで食欲不振を誤魔化している場合でもない。
いい加減、少しでも何か食べないと本当に病院送りになりそうだ。
帰りがけにスーパーへ寄り、色々と食べ物を見て歩いたけれど、どれを見ても食べたいという衝動に駆られない。
仕方なく、冷たいそうめんだったら食べられる気がして乾麺を買って帰った。
お湯が沸くまでの間、キッチンに立ったまま鍋の中をぼんやりと眺めながら、気がつけば秋斗のことを考えていた。
秋斗に逢わなくなって、三年。
まさか、こんな風にもう一度逢うことがあるなんて、少しも予想などしていなかった。
三年前の大学卒業の日。
ずっとそばにいたのに、ずっと遠かった存在の秋斗。
彼の周りにいるたくさんの女性たちに嫉妬し続けていた毎日を終わらせたくて、私は勇気を振り絞る決心をした。
出会ってからずっと好きだった秋斗に、思い切って告白をしたんだ。
だけど、答えは、NO。
気がつけばいつも隣にいてくれて、優しくしてくれていた秋斗へ淡い期待を抱いていた私は、見事に撃沈し辛い涙を流した。
そんな私が、あまりに不憫だったんだろう。
泣きながら秋斗のそばを離れようとした私を、なぜか彼の手が引き止めた。
気がつけばその胸の中に抱かれ、何が起きたか理解できずにいた私の唇を、秋斗は強引に奪ったんだ。
何故、秋斗が私を抱きしめたのか。
何故、私にキスをしたのか。
多分、可哀相過ぎて見ていられなかったか。
もしくは、そんなに好きなら、キスぐらいしてやってもいいと思ったのかもしれない。
理由はわからないままだけれど、私にとってそのキスは忘れたくても忘れられないものになった。
大好きな人がくれた、最初で最後の辛く苦しいキス。
そんなことがあって、私は秋斗との連絡を絶った。
このまま仲良し四人組を続けることなど、できそうになかったから。