春に想われ 秋を愛した夏
今まで、逢わなかったのが不思議なのかもしれない。
職業の全く違う春斗になら、逢いに行こうと思わなければ、逢うことはできないだろうけれど。
同じ業種の秋斗と、今まで一度も顔を合わせずに済んでいた事は、ある意味奇跡なのかもしれない。
そもそも、秋斗と同じ業種を初めに選択したのは私だ。
就職活動が始まる前に、秋斗が言葉にしたやりたい仕事。
それに乗っかるようにして、仕事先を選んでいったのは自分だった。
あたかも偶然だ。とでもいうように、何社もの同じ会社へ面接にだって行った。
幸い、というか。
その時はかなり落ち込んだけれど、秋斗が受かった会社に私はまんまと落ちてしまった。
だけど、そのおかげで今がある。
もしも同じ会社に通う羽目になっていたら、私は自ら内定を辞退していたことだろう。
就職活動にパンプスの底をすり減らして入社した会社であってもだ。
なのに、結局今になって、また逢ってしまうなんて。
まるで逃れられないあり地獄みたいだ。
諦めの溜息を零すと、天井の目地を眺めていた自分へとその溜息が降ってくる。
素直に受け止めることができなくて、気を逸らした。