いいわけ
「………っ」
「あ、大久保のも教えて」
「……え?ああ、いいよ」
身体は極めて普通に振る舞っている。しかし内心は軽快な音楽と共に激しく踊り出す自分がいた。
心臓そのものが素早いリズムを打ちつけ、ついには晴れ晴れとした音楽に乗ってる気さえした。
まさか啓太からアドレスを聞いてくれるとは思わなかった!同じ部活だからって理由でも充分嬉しい……
赤外線で交換したかったが、そういう訳にはいかなかった。あたしが使ってるケータイは親のもので、学校にはもって来れない。
この時の高校生の携帯所持率はほぼ100%に近く、あたしはすごい親に文句を言っていた。けど親も強情で、必要ないの一点張り。
いつまでも押し問答を続ける訳にもいかず、結局親のケータイを借りるということで落ち着いた。
「ちょっとシャーペン貸して」
「ん、」
啓太から借りたシャーペンで、さらさらと机にアドレスを書く。
「机に書くなよ!つか、そこ隣りのやつのだし!」
まあいいじゃん!と言おうとしたらチャイムが鳴り、あたしは名残惜しくも自分のクラスに戻ることにした。