【完】『遠き都へ』

時計は六時前である。

朝早くからけたたましい着信音で起こされた桜井理一郎は、電話のせいか不機嫌そのものであった。

「ねぇ理一っちゃん…どうしたの?」

隣で寝ていた貴島セイラが、長い茶髪をかきあげ気味に訊いてくる。

一糸まとわぬ生まれたままの姿のセイラは、モデルにふさわしい小麦色に灼けてすらりとした裸身をシーツにくるみながら、ベッドに寝そべって煙草に火を点けた。

というのも。

電話での理一郎は、普段セイラが聞いたことのない、骨肉に染み込んだであろう土佐弁で、

「何して今さら俺が高知ば戻らなならんがぞね? 一人ぐらい戻らんでも、納骨の一つや二つ支障ないろうが!」

珍しく声を荒らげたから、日頃の穏やかな口ぶりしか知らないセイラは驚いた。

電話が切れたあと、

「…何か、あったの?」

「別に何もないき、心配せんでえぇが」

ちょっとぶっきらぼうな土佐弁が直らないまま、理一郎は言った。

「またそう隠す…」

セイラはブスッとふくれている。

間が、空いた。

「…いつもそうだよね」

「?」

「理一っちゃんはさ、いつだって独りで抱え込んじゃうんだもん」

あたしはセックスの相手なだけ?──セイラは帰国子女らしいズケズケした物言いをする。

「そういうのじゃなくて」

この頃には東京弁に戻っている。

「じゃ言ってみてよ」

鋭い目で、セイラは問い詰めた。

何かが自分の秘密裡に進展するのを、快く思っていないらしいことだけは確かであろう。

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