【完】『遠き都へ』
「でもあの頃、女子で噂になってたのは桜井くんだったんだよね」
「…えっ?」
「ほら、桜井くんってあの頃、女子高の女の子と付き合ってたじゃない?」
何か取られたみたいでみんなで話題になってたんだよ──と、初めて耳にする話を理一郎は聞いた。
「うちの学校って中高一貫で、高校になったら四年生とか呼ぶでしょ?」
それだけ結束力の強い反面、転入すると浮いてしまうのである。
「あたしなんか高校から入ったから、なかなか馴染めなかったけど」
あゆみは寂しげな笑みを浮かべながら、棚にカップを納めた。
「男子の間じゃ橋口が噂になってたけどね」
理一郎が言うと、
「それで隣のクラスにいた、桝岡ってパン屋の息子が橋口にアタックしたら、生理的に好きになれないって言われて玉砕して」
身の程を知れって言われていたのを、理一郎は思い出した。
「あのパン屋、まずすぎて親父さんの代でつぶれたあと、あいつ東京におるって聞いたぞ」
「まるで東京がまずいものしかないみたいじゃないかよ」
「前に親戚の法事で東京行ったら、高知の味が恋しいだろうからって鰹のたたきが出たけんど、臭くて食えたもんやなかったぞ」
これを機に高知に戻るつもりはないがか?──大介は訊いた。
「向こうで仕事もあるからなぁ」
「…そうか」
大介は唇をとがらせた。
「まぁまた戻ったら、そんときはみんなで飲もうや」
そんな風にして、理一郎とセイラはアイビーを出た。
「…えっ?」
「ほら、桜井くんってあの頃、女子高の女の子と付き合ってたじゃない?」
何か取られたみたいでみんなで話題になってたんだよ──と、初めて耳にする話を理一郎は聞いた。
「うちの学校って中高一貫で、高校になったら四年生とか呼ぶでしょ?」
それだけ結束力の強い反面、転入すると浮いてしまうのである。
「あたしなんか高校から入ったから、なかなか馴染めなかったけど」
あゆみは寂しげな笑みを浮かべながら、棚にカップを納めた。
「男子の間じゃ橋口が噂になってたけどね」
理一郎が言うと、
「それで隣のクラスにいた、桝岡ってパン屋の息子が橋口にアタックしたら、生理的に好きになれないって言われて玉砕して」
身の程を知れって言われていたのを、理一郎は思い出した。
「あのパン屋、まずすぎて親父さんの代でつぶれたあと、あいつ東京におるって聞いたぞ」
「まるで東京がまずいものしかないみたいじゃないかよ」
「前に親戚の法事で東京行ったら、高知の味が恋しいだろうからって鰹のたたきが出たけんど、臭くて食えたもんやなかったぞ」
これを機に高知に戻るつもりはないがか?──大介は訊いた。
「向こうで仕事もあるからなぁ」
「…そうか」
大介は唇をとがらせた。
「まぁまた戻ったら、そんときはみんなで飲もうや」
そんな風にして、理一郎とセイラはアイビーを出た。