【完】『遠き都へ』
翌日、理一郎とセイラの姿は桂浜へと向かうバスの車中にあった。

折から雨である。

「…親父、そういや雨男だったな」

「そうなんだ」

セイラは窓の向こう側の、雨煙に霞む高知の町を眺めていた。

が。

不意に、

「…あたし、雨の日って好きだよ」

何か映画のシーンみたいで、とセイラは微笑んだ。

「高知は台風銀座で雨ばっかりって記憶しかないけどなぁ」

理一郎は苦笑いした。

きっとセイラの育ったアメリカの町は、雨が少ないのであろう。

バスは潮江橋を渡って、梅ノ辻から桟橋通を港の手前で右へ。

宇津野のトンネルを抜け、横浜から瀬戸へ出て、長浜の出張所で降りた先に、雪蹊寺の石段はあった。

時期でないだけに少なかったが、境内には何人か白い装束の巡礼があって、大師堂で朗々と般若心経を読んでいる。

寺域は住宅街の中にしては広かった。

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