【完】『遠き都へ』
大師堂を右に石畳を進むと本堂がある。

手をあわせた。

こうして。

住職に取り次いでもらい、出てきた僧に骨箱を託した。

帰ろうとした瞬間、

「理一郎くんに伝えといたほうが、えぇかもわからんけんど」

と前置きした上で、

「実は譲さんには理一郎くんとは別に娘さんがおって、もう高校生になる」

と言い出したのである。

「そんな安い海外のドラマみたいな話があるんですか?」

黙って僧は頷いた。

その頷きかたがあまりにも重々しいので、

「…本当なんですね」

思わず理一郎は渋い顔をした。

世を去ってからも、みずからの人生をどこまでも振り回す父親のありように、

「こんなんだったら納骨なんかしないで捨てたほうがまだましだった」

口が滑った。

これには僧が、

「そういうことはいうものではない」

親の因果が子に報いる、とはこういうことを言うのかも知れない…と理一郎が我が身を呪いたくなったように、セイラには映った。

だが。

僧は言う。

「親は子と合わせ鏡、何か行き当たる節はあるのでは?」

確かに。

理一郎という男には、少し軽薄な面がある。

〆切の日が近づくと平然と嘘をついたり、綺麗な女を見るとセイラがいても声をかけようとする。

(もしかして)

そういうところが譲に似たのではないのか、とセイラは直感がひらめいた。

しかし。

旅先で喧嘩をするのもつまらないと思ったのか、

「あのお坊さんさ、深読みしすぎだよね」

とでもことさら明るく言うより他なかった。

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