【完】『遠き都へ』
無事に納骨が終わって、高知駅まで戻ってきた頃には、陽が傾いていた。

「東京へ帰ろう」

理一郎はセイラにそう促してみた。

「もうだいたい、俺が生まれた町ってどういう場所か、分かったと思うんだ」

別に帰りたいと思ってなかった故郷である。

長居をする必要はない。

が。

「例の妹さん、探してみようよ」

セイラが言った。

「そんな時間はないし、だいいちどこにいるかも分からないのに」

雲をつかむような話である。

「でもさ、いざってなったら身内がいちばんの味方だって」

理一郎は内心、

(余計なことを…)

心のうちで嫌な顔をつくった。

「いいもん、理一っちゃんが探さないなら、あたしが生放送で呼び掛けてでも探すから」

「それだけは止めてくれ」

そもそも家族の恥は曝したくない、と理一郎は言った。

「恥?」

「これだけあちこち迷惑かけて、人の一生振り回して、そんなんで父親だなんて呼びたくもないし、出来ることなら抹消したい」

「でも、死ぬまで親は変えられないんだよ」

嫌でも何でも受け入れなきゃなんないんだよ、とセイラは言ってから、

「理一っちゃんって大きな子供みたいだよね…自分の思うようにならないとすぐ機嫌悪くするし」

でも、とセイラは続ける。

「あたしが理一っちゃんを選んだのはね、他の男にはない素直さがあったから、だから選んだんだよ」

そりゃ大きな子供だけど、あたしの前ではすぐ笑うしすぐ謝るしで真っ直ぐじゃない──セイラは半分泣きそうな顔をしていた。

「もうさ…いいかげん受け入れなきゃ」

「…分かった」

「探すの?」

「とりあえず、海が見たい」

理一郎は桂浜へ行くバスを見つけると、再び乗った。

仕方ない。

セイラもついて行く。

西陽の眩しい町を、バスは海を目指した。

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