【完】『遠き都へ』
桂浜へ着いた頃には既に夕刻である。
雨は止んで、丸みを帯びた青空が、太平洋を凌駕する豊かさで広がっていた。
降り立ってみる。
砂を踏みしめてみた。
少し靴が沈んで歩きづらかったが、それは母親に連れられて歩いたときの、懐かしい感触でもある。
暮れ泥んでゆく浜に人影はない。
理一郎とセイラだけが、鈍色をした汀にたたずんでいた。
ふとセイラは、
「…ね、清家さんに訊いてみたら?」
理一郎の顔を覗き込んだ。
「清家に?」
コクッ、とセイラはうなずいた。
「手がかりまではゆかないかも切れないけど、ヒントぐらいは分かるかも知れないしさ」
「そうかなぁ?」
「とりあえずあのカフェで訊いてみようよ」
どうやら橋口あゆみのいるアイビーのことらしい。
「うん…」
気乗りしないが、
「まぁ行くだけ行ってみよう」
見上げると、宵の明星がまたたいている。
既にアイスクリンの屋台は店じまいを始めていた。