【完】『遠き都へ』
「実家の話だから」
「ふーん…じゃあ前に結婚したいって言ったのは嘘ってこと?」
必死になって口説いていたときの話を持ち出されると、理一郎も顔つきが厳しくなる。
答に窮した。
「…分かったって」
観念した様子で理一郎は、
「…父親の納骨の話さ」
と簡潔に答えた。
「亡くなったんだ?」
「俺が今の漫画を書き始める前だから、一年以上も前だけどね」
「そんな前に?」
「それで、最近まで京都にいたっていう父親の兄貴が遺骨を預かってたんだけど、こないだ介護の施設に入って預かりようがなくなったからって、高知の菩提寺に納骨するってなって」
「そういう話だったんだ…」
理一郎は頷いた。
「それで、理一っちゃんは高知に帰らないの?」
「父親とは仲悪かったからなぁ…今さら向こうに帰るったって」
ばつの悪そうな顔を理一郎はしてみせた。
「たまには帰ってあげたらいいじゃん」
あたしなんか親アメリカだから簡単に帰れないんだよ…と言ってから、
「そういう人の気持ち、考えたことある?」
そこを衝かれると理一郎は何も言い返せない。
「あたし良かったらついてくから」
そこまで言われては、
「…分かったって、もう」
不承不承ながら同意するより他なかった。