【完】『遠き都へ』
朝。

新聞を配達するスクーターのエンジンの音しか、ビルだらけのこの街には響いていない。

「ごめんね聖(せい)ちゃん、わがまま言って」

マネージャーの森島聖からセイラは鞄を受け取った。

「一週間以内に必ず戻って来てくださいよ」

「分かってるって」

「そうでないと、生放送に穴が開いちゃうんですよ」

聖は泣きそうになっていた。

何しろ森島聖が貴島セイラの担当マネージャーについて以来、とにかくセイラの言動には振り回されていたのである。

「それにしても、わざわざセイラさんがついて行かなくたって…」

「あのね、理一っちゃんはあたしがついてないとダメな人なの」

それに未来の親戚なんだし、と付け加えてから、

「だから見ておきたいの。理一っちゃんの生まれ育った場所を」

「はぁ…」

聖には返す言葉がない。

「とりあえず京都までは同行しますから」

「信用ないなぁ」

「今回だって、社長は相当にがい顔してたんですから」

これで最後にしてくださいよ──聖はぼやいた。

「…行こ」

セイラはタクシーを止めると、聖に荷物を任せ早々と乗り込んだ。

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