【完】『遠き都へ』
播磨屋橋の停留所で降りると、
「おーい!」
交差点の反対側で手を振る男がある。
「俺ちや俺、清家やー」
えらい恰幅はよくなったが、間違いなく清家大介である。
(何で清家がいるんだ?)
考えてみたら当たり前であろう。
ここは高知なのである。
顔見知りの一人や二人いたところで、別に奇異な話はない。
が。
別に示しあわせた訳でも何でもない。
青信号に変わった。
大介がダッシュで駆け寄ると、
「おまん久しぶりやのー」
いつ帰って来ゆうが?──かなり訛りの強い高知弁で訊いてきた。
「さっき着いたばっかりだよ」
「バリバリ東京弁かや…おまんもすっかり、東京もんやのー」
まぁ来い、と大介は理一郎の都合も訊かず腕ごと引っ張って、つかまえたタクシーに理一郎とセイラを押し込んで、
「帯屋町まで」
大介みずからは助手席へと乗り込んだ。
「どこ連れて行くんだよ」
「おまん橋口あゆみ知っちゅうか?」
「あぁ」
確かクラスメイトで学校一の美少女と呼ばれた生徒である。
「そん橋口がな、今じゃ帯屋町でコジャレたカフェば開いちゅうがよ」
おまん久々に高知ば帰って来ちゅうき、引き合わせちゃる──と嬉しくてたまらなさそうな顔をして、大介は言った。