【完】『遠き都へ』
が。
それは今はどうでもよい。
問題は、理一郎とセイラである。
「…彼女?」
セイラが会釈した。
「あ、フィアンセのセイラです」
「まぁな」
理一郎はつっけんどんな顔をした。
「そぅ…良かったじゃない」
あゆみは何かを圧し殺すように笑顔を作った。
しかし。
理一郎は意にも介さない。
この鈍さが、理一郎を理一郎たらしめていた。
ところで。
「何で帰って来ゆうが」
「ちょっと親父の納骨があってさ」
出されたコーヒーに理一郎は口をつけた。
「寺は遠いんか?」
「いや、長浜の雪蹊寺だから…まぁべらぼうに遠くはないけど」
ついでながら長浜というのは高知の市内だが、桂浜へ向かう途中にあたる。
「あそこ禅寺やのにお遍路さんの札所やもんな」
「そうなの?」
あゆみが目を丸くした。
「まぁ仕事が酒屋であっちゃこっちゃ出入りするから、無駄に知っちゅうだけやけど」
「そうだよね」
あたし清家くんと結婚したら良かった、とあゆみは吐露するように言った。
「ほら清家くんってさ、いつも明るいじゃない」
「確かに昔からこいつは、不必要に明るかったな」
理一郎は言った。
「その不必要っちゅうのはいらんろうが」
「それで桜井くんが、おまえは風呂場の百ワットかって」
セイラがキョトンとしたので、
「無駄に明るいって意味さ」
と理一郎が解説すると、そこで初めてセイラは分かったようで、
「超ウケるんだけど」
手を叩いて笑った。