【短編】さくらいろ。
さあ、もう時間がない。
ここで会わずに告白もせずにいれば、私たちは恋人になることなく、ただのクラスメイトのままいられる。
あなたは、思い出も想いも何もかも背負わずにすむんだ。
彼がやってくる方向とは逆向きに歩きだ……そうとしたのに……。
一目だけでも、最後にあなたを見たい気持ちが足を引き止める。
早く。早く。
もう時間がない。
時間がないのに!
何とか体の向きだけは変えて、桜の木にさよならを言おうと小さく息を吸い込んだ。
「橋崎さん?」
「ひゃっ?!ゴホゴホゴホ……」