月夜の桜

記憶喪失になった大樹は、私にとって抜け殻みたいなものだった。
何を話してもわからない大樹。
まるでリセットがかかったみたいに。

静香「ねぇ、何も覚えてないの?」

大樹「何も思い出せない。ごめんね。」

静香「そっか。」

話してると悲しくなってくる…。
このまま大樹が記憶を取り戻さない限り、私達の時間は止まったまま。
将来の約束も覚えてないだろうと思いながら、大樹に聞いてみた。

静香「大樹の中で覚えてることって何?」

大樹「何か大事なものがあるのはわかるけど、それが何なのか…。」

静香「それは大樹にとって一番大切なもの?」

大樹「そうなんだけど…やっぱり思い出せない…。」

大樹の頭には、かすかに残っている感じがした。
私はそれだけ分かれば最初は良かった。
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