隣の仲介屋
「弥殊、彼氏できたんだって?」
次の日、授業の始まる前に羽月が聞いてくる。
情報早いな。
そう思いながら頷くと、羽月は言う。
「海陸から聞いた」
あぁ、晋ちゃんか。
女バスの羽月は晋ちゃんともなかなか仲がいい。
「羽月は彼氏作んないの?」
あたしが聞くと、羽月は少し黙ってから口を開いた。
「あたしはさ、好きな人いるんだ」
「え?」
羽月に好きな人!?
初耳だよ。
「けどね、その人には大好きな子がいるから絶対彼女にはなれないの」
羽月が少し悲しそうに言うから、つい目頭が熱くなる。
羽月は本当にいい子なのになぁ。
何でその人は羽月の良さに気付かないんだろう。
「あたしなりに頑張ってはいるんだけどね」
羽月が笑う。
「弥殊が悲しそうな顔しないでよ。あたし普通に話せるだけで幸せなんだから」
普通に話せるだけで幸せ。
そんなことを言う羽月の表情はきれいで。
あたしもそんなことを言いながら、あんな顔のできる恋がしたいと思った。