悪魔ニ花束ヲ

「視界が悪くて見えなかった、本当に悪かった」


雨に濡れた黒い髪がやけにセクシーだ。甘さを含んだ垂れ目の瞳は、今、更に申し訳なさそうに色を変えていて。というか、なんて無精髭の似合う人なんだろ。そんな男前にも雨は容赦無く、もうびしょ濡れになってしまっている。「かまいませんよ、それより濡れちゃってますよ」焦ったあたしは日頃出さないような大声で、あたしのミジンコ並の存在感の薄さが悪いんです、とその人の謝罪を受け流す。

「いや、折角傘差してたんだろ?そのままじゃ風邪引くし。すぐそこに店があるから来てくれないかな?怪しくないぞ?いや、こんな事言ったら逆に怪しいか?信用してくれ」


警戒していたように見えたのか、必死で言葉を探して頭を掻く仕草が何とも状況に似合わず可愛らしくて、その懸命さに笑ってしまいそうになった。

構わない、というのに強引に押し切られ、あたしはその人の指差した場所、エンジンがかかったままの車から更に目と鼻の先のカフェへ連れて行かれた。







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